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津地方裁判所 平成元年(ワ)333号 判決

原告

伊藤秀雄

原告

打田研二

原告

太田敏明

原告

倉田順弘

原告

鈴木重次

原告

竹田有

原告

中浜恒

原告

南部信幸

原告

野田弥

原告

波多野敏一

原告

林稔

原告

横山晃

原告

宮崎正美

原告

増山博昭

原告

山口重信

右原告等訴訟代理人弁護士

今村憲治

被告

三重一般労働組合中勢自動車学校分会

右代表者分会長

長谷川彦英

右訴訟代理人弁護士

渡辺伸二

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  原告らの請求

1  被告は原告らそれぞれに対し、別紙一覧表中の「積立明細金額」欄記載の各金額及びこれに対する平成元年五月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

第二  事案の概要

本件は、被告労働組合を任意脱退した原告らが被告に対し、罷業資金として毎月積み立てていた積立金の返還(及び訴状送達の日の翌日からの遅延損害金)を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  原告らは、いずれも三重県鈴鹿市寺家所在の株式会社中勢自動車学校に勤務する職員であり、被告組合の組合員であったが、別紙一覧表の「脱退年月日」欄記載の日(いずれも昭和六三年中)に組合を脱退したものである。

2  被告は、右株式会社中勢自動車学校に勤務する従業員で組織される労働組合であり、従前は「交通労連中部地方総支部中勢自動車学校労働組合」(以下「旧組合」という)であったが、昭和六三年二月三日に上部団体である交通労連から脱退し、同年二月一一日に三重一般労働組合に加入し、現在の被告「三重一般労働組合中勢自動車学校分会」となったものであり、組織及び構成員を従前と同じくする法人格のない団体である。

したがって、被告組合と旧組合とは実質的に同一であり、被告は原告ら組合員との関係では、旧組合の権利義務を承継した(以下、旧組合を含めて「被告組合」という)。

3  原告らは、別紙一覧表の「加入年月日」欄記載の日に被告組合に加入したものであるが、被告組合では「中勢自動車学校労働組合罷業資金規定」(以下「旧規定」という)に基づいて、組合員一人について月額二〇〇〇円の罷業資金を積み立てており、その各人の積立金額は別紙一覧表の「積立明細金額」欄記載(最終昭和六三年七月末日まで)のとおりである(以下「本件罷業積立金」という)。

4  右罷業資金は、旧規定(〈証拠略〉)によれば、その徴収は「組合費に準じて徴収し」(三条)、その使途は「罷業期間中の組合員の生活資金に充てる」(四条)ものであり、使用手続として「執行委員会又は大会の承認を得なければならない」(五条)とされ、預け入れ、会計は「組合名義の特別預金として一括労金へ預け入れ、特別会計とされ」(六条、七条)ていた。そして、右罷業資金は、一括して労働金庫へ預け入れられたが、各組合員の個別明細のあるものであった。

5  原告宮崎正美は昭和六三年三月一九日に被告組合を脱退し、本件罷業積立金の返還を要請したが、被告はその支払に応じない。また、原告山口重信も同年四月二一日に被告組合を脱退したが、同様である。

6  被告は、昭和六三年五月三〇日、罷業資金に関する旧規定を新たな「三重一般労働組合中勢自動車学校分会罷業資金規定」(以下「新規定」という)に改訂した。

旧規定(〈証拠略〉)の第八条(個人返還)には、「この資金の返還は、次の場合のみ行い、その他は一切返還されない。(1)死亡 (2)退職 (3)定年による非組合員となった時 (4)組合規約第三条に該当する者になった時 (5)その他大会で決議された場合」と規定されており、その返還金額(九条)は「個人の積立分に、その時までの利子を加えたものを原則とする」と規定されていた。

新規定(〈証拠略〉)は、個人返還の規定を抹消し、その第八条(退職時の表彰等)は、「次の場合は、表彰金又は慰労金を支払う。(1)死亡 (2)退職(在組合中) (3)定年による非組合員となった時 (4)その他大会で決議された時」と規定されており、その表彰等金額(九条)は「別に定める(当面従来通りとする)」と規定されている。

7  原告宮崎及び同山口を除くその余の原告らは、右規定改訂後に被告組合を脱退したが、被告は原告らに対し、本件罷業積立金を返還していない。

二  争点

(原告らの主張)

1 本件罷業積立金は、各組合員が被告組合に預託して、罷業時の組合員の生活費として一定の条件のもとに支出が許されるものであって、その他は組合員の脱退時等に返還される「脱退等を解除条件とする消費寄託金」である。

2 旧規定の八条には、罷業積立金が返還される場合として、「(4)組合規約第三条に該当する者になった時」を規定しており、組合規約第三条(〈証拠略〉)には「社会通念上組合員たる資格を具備しないと認めた者」と規定しており、右は「脱退」を含むと解すべきである。

したがって、新規定に改訂される以前に被告組合を脱退した原告宮崎及び同山口が本件罷業積立金の返還請求権を有することは明白である。

3 昭和六三年五月三〇日に改訂されたという罷業資金に関する新規定は、以下の理由により無効であって、本件罷業積立金の返還を妨げるものではない。

(一) 右規定改正の目的は、当時原告宮崎及び同山口から組合に返還請求がなされていたため、この両名の請求を事実上排斥するため、積立金を一般組合活動費に入れた形式にして、通帳上は積立金がないような形にしたものである。そのため、当時の被告代表者は会計係の原告波多野に対して、規定改訂の目的を話し、「後日返還する」旨述べていたのである。

(二) 被告代表者の右言動の結果、原告らは仮に改訂になっても、それは原告宮崎らの請求をかわす方便にすぎず、その他の原告らは個々の積立分については後日それぞれの個別明細どおりに返還されると考えていたのである。

(三) 右のような方便等、被告のやり方について疑問と考えていた者も、当時、被告による原告山口に対する嫌がらせがなされていたことや(証拠略)の「団結署名」書に署名させられていたことなどから、右規定改訂時には被告の三役の方針に反対したり異議を言い出せる状況ではなかったのである。

(四) 新規定は、あくまでも改訂日以降の罷業積立金について、その使途、退職時の処理等につき変更する内容であって、それまで各自が積み立てていた預金分についてまで遡及して組合費にされるものではない。従来存した個人の権利を多数決による団体法理をもって奪うことはできないから、原告らが罷業資金規定改訂前に積み立てた本件罷業積立金は当然返還されるべきものである。新規定の九条には「当面従前通りとする」旨規定されている。

(五) 新規定に改訂されたのは以上の状況下によるものであるから、仮に新規定により本件罷業積立金の返還請求権がないというのであれば、右新規定は原告らの真意に基づかないものとして錯誤無効であるか、あるいは被告の代表者による欺罔に基づくものとして取消しをする。

(被告の主張)

1 旧規定による積立金について

原告らは、旧規定(〈証拠略〉)に基づき、被告に対して本件罷業積立金の返還請求権を有しない。

旧規定には、第八条列挙の五つの事由が発生しない場合には、積立金は一切返還されないと規定されている。右五事由には組合の任意脱退の場合も包含すると解釈される余地のある規定はないから、組合を任意に脱退した者に返還請求権は存在しない。

原告らは、脱退者は旧規定第八条(4)号の「組合規約第三条に該当する者になった時」に該当するとし、組合規約第三条(2)号の「社会通念上組合員たる資格を具備しないと認めた者」に脱退者が含まれると主張する。しかし、右組合規約第三条は組合員資格を付与する範囲を定めた規定であり、同条(2)号は使用者の利益代表等を組合員としない旨、労働組合の資本からの独立を規定したものである。右規定に脱退者が含まれると考える余地はない。

2 罷業資金積立金の一般会計への組入れ

昭和六三年四月四日被告の臨時組合大会で、これまでの罷業資金積立金(以下「罷業積立金」という)全部を一般会計へ組入れて、日常の組合活動の費用として使用することが決定された。この決定は、組合員全員の賛同によるものであり、既に組合を脱退していた原告宮崎を除き、原告ら全員が承諾したことである。この決定により、右同日までに積立された罷業資金はすべて一般会計の組合財産に組入れられたのであり、原告らが求める本件罷業積立金の返還請求は認められない。

右決議の後、罷業積立金全額は一般会計に組入れられ、被告はこれを組合活動のために使用し、平成元年七月三一日までにすべて使い果たされている。したがって、原告らが返還を求める本件罷業積立金は存在しない。

3 新規定による積立金について

旧規定は昭和六三年五月三〇日に改正されたが、この改正時点で既に組合を脱退していたのは原告宮崎及び同山口のみである。他の原告らは新規定を承認している。

右旧規定の改正は、脱退者である原告宮崎及び山口から罷業積立金の返還請求がなされたことを受けて、旧規定によっても返還すべきものではないことを原告ら(右両名を除く)を含む組合員全員で確認した上行われた改正である。

したがって、この改正は、既に積み立てられていた本件罷業積立金についても適用されることを全員が承諾していたものであり、組合の団結を弱体化させる脱退者には罷業積立金を返還しないことは、旧規定と何ら変りない改正であった。

4 以上により、原告宮崎は右1の理由、原告山口は右1及び2の理由、その余の原告らは右1ないし3の理由により、原告らの本件罷業積立金の返還請求は理由がない。

(原告らの反論)

1 被告は、昭和六三年四月四日被告の臨時組合大会で罷業積立金全部を一般会計へ組入れる旨決定したと主張する。

しかし、原告らは右日時に右趣旨の組合決議がなされたことを誰一人認識しておらず、右決議の存在自体及び有効性を争うものである。被告の主張に符合するかにみえる(証拠略)はその記述内容も矛盾しており、信用性が全くない。

2 その余の被告の主張に対する反論は、前記原告らの主張のとおりである。

第三  争点に対する判断

一  前記争いのない事実及び証拠(〈証拠・人証略〉)を総合すると、次の事実が認められる。

1  株式会社中勢自動車学校の従業員で組織する労働組合では、旧組合の昭和五二年二月当時から「罷業資金規定」を設けて、組合員から一般組合費の外に一定額の罷業資金(当初一人月額一〇〇〇円であったが、その後二〇〇〇円となる。)を徴収し、これを積み立てていた。

2  右罷業資金は、旧規定(〈証拠略〉)にあるとおり、その徴収は組合費に準じて徴収し(三条)、その使途は罷業期間中の組合員の生活資金に充てるものであり(四条)、使用手続としては執行委員会又は大会の承認を得なければならないとされ(五条)、預け入れ、会計は組合名義の特別預金として一括労金へ預け入れ(六条)、特別会計とされてきたものである(七条)。

3  そして、右各二〇〇〇円の罷業資金は、各組合員の給料から組合費と共に給料から天引き控除されるものであり、この罷業資金のみを一括して組合会計係が労働金庫(鈴鹿支店)の組合名義の積立金・普通預金口座に入金し、その預金額がある程度高額になるとこれを組合名義の定期預金口座に組み替えて預金し、また積立金の利息のみを利息口座に入金して保管していた。

右各預金口座の預金通帳は組合会計係が保管していたが、預金の組合名義の届出印は組合三役が保管しており、右届出印に基づき各預金の払出し、預金解約手続がなされていた。

4  なお、右罷業資金の各預金の預金契約者は、右のとおり労働金庫と被告組合であるが、右金庫では組合からの委託に基づき、各組合員の預金高が判る積立明細表(〈証拠略〉)を毎月作成しており、また、組合員毎の各預金明細書(〈証拠略〉)を年に一回作成して組合会計係に渡しており、後者は各組合員に配布されていた。ちなみに、昭和六三年六月ころの組合員各人の積立金残高はほぼ一人二十数万円であった。

5  右罷業資金の個人返還については、旧規定(〈証拠略〉)の第八条(個人返還)には、「この資金の返還は、次の場合のみ行い、その他は一切返還されない。(1)死亡 (2)退職 (3)定年による非組合員となった時 (4)組合規約第三条に該当する者になった時 (5)その他大会で決議された場合」と規定されており、その返還金額(九条)は、「個人の積立分に、その時までの利子を加えたものを原則とする」と規定されていた。

そして、右組合規約(〈証拠略〉)の第三条(組織)には、「組合は中勢自動車学校従業員をもって組織する。但し、下記の各号に該当する者は除外する。(1)検定員以上の職にある者 (2)会社の機密業務にたずさわる者の他、社会通念上組合員たる資格を具備しないと認めた者 (3)臨時に期限を定めて雇い入れた者、試用期間中の者」と規定されていた。

二  右の事実関係によれば、原告らの罷業積立金は、組合の罷業資金規定に基づき、罷業時に組合員の生活資金に充てるため、組合費とは別に毎月二〇〇〇円ずつ組合が組合員から徴収し、これを組合名義で労働金庫に預金して保管している闘争積立金であるが、その個人返還については、右罷業資金規定(旧規定)第八条に「この資金の返還は次の場合のみ行い、その他は一切返還されない」と規定され、その返還事由の一つに「(4)組合規約第三条に該当する者になった時」と規定されていることから、組合を「任意脱退」した者がこれに該当するか否かが先ず問題である。

原告らは、組合員が組合を脱退したときは右組合規約第三条(2)号の「社会通念上組合員たる資格を具備しないと認めた者」に該当すると主張する。

しかしながら、右規約第三条の規定をみると、同条各号は組合員となる資格を有しない者を定めた規定であり、その(1)号は、会社の「検定員」以上の職にある者がいわゆる管理職として組合員となる資格がないことを、(2)号は、一般従業員であっても会社の機密業務にたずさわる者や会社経営者と特殊な身分関係にある者など会社との関係で社会通念上労働組合の組合員となるにふさわしくない者が組合員となる資格がないことを、(3)号は、長期間の従業員であることが定かでない臨時雇用者や試用期間中の者が組合員となる資格がないことをそれぞれ定めたものと解される。したがって、右規定の文理からみて、組合を脱退した者が右規約第三条(2)号の「社会通念上組合員たる資格を具備しないと認めた者」に該当しないことが明らかである。そして、このように解することによって、右罷業資金規定第八条の他の各号(特に、(3)号の「定年による非組合員となった時」の規定)との整合性が認められる。

そうすると、右罷業資金規定(旧規定)は、組合を脱退した組合員に対しては積立残金がある場合でもこれを返還しない旨規定していることになるのであるが、罷業資金の性質や月額二〇〇〇円という金額からみて、組合の闘争力、団結力を弱める反組合的行為をした場合にこれを返還しないとすることには合理性がないとは言えず、また、このような返還しない場合のある規定が公序良俗に反し無効であると言うことはできないから、右のような内容の罷業資金規定も有効であると解される。

したがって、原告らの罷業積立金は、被告の罷業資金規定(旧規定)により、他に特別の合意ないし慣行が存しない限り、一定の返還事由が発生したときにのみ組合員に返還請求権が発生する組合に対する拠出金の性質を有するものであると認められる。そして、右規定によれば、組合員の脱退や除名は所定の返還事由に該当しないことが明らかである。

そこで、罷業積立金の返還に関する慣行の有無について検討するに、証拠(〈人証略〉)によれば、被告組合では昭和六三年二月までに一〇名くらいの人に罷業積立金を返還したが、それは訴外池田孝弘を除いていずれも退職や検定員になって組合を罷めた者であること、訴外池田の場合は、当時組合長であった同人は昭和五九年二月ころ組合を脱退したが、その際に罷業積立金の返還を受けたので、昭和六〇年九月ころ、その当時の組合長早川秋年が右罷業積立金の返還は罷業資金規定に違反するとして訴外池田から右積立金を組合に戻させたのであるが、昭和六二年九月の退職に際して、その当時の組合長奥村泰章は、訴外池田が昭和六〇年八月に自宅の火災に遭い、昭和六一年九月に交通事故により長期入院し欠勤のまま退職したという不幸な事情があったことやその他の事情から、訴外池田に対し罷業積立金を返還したものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右によれば、組合員の任意脱退の場合も罷業積立金を返還するとの慣行があったとは認められない。

以上によれは、旧規定の存した時期に脱退した原告宮崎及び同山口は本件罷業積立金の返還請求権を有しないから、同原告らの請求は理由がない。

三  次に、その余の原告らの請求について検討するに、前記争いのない事実及び証拠(〈証拠・人証略〉)を総合すると、次の事実が認められる。

1  被告は、昭和六三年二月に、その上部団体を交通労連から三重一般労働組合に変わり、会社と厳しく闘争し、しばしばストライキもするようになった。

2  昭和六三年三月一九日に原告宮崎が組合を脱退し、組合員数は二四人となり、組合執行部は同年四月一八日には組合員らに団結署名(〈証拠略〉)を求めるなどして結束を固めるようにしたが、当時組合書記長であった原告山口が同年四月二一日に組合を脱退した。

3  それで、組合執行部は原告山口の態度を非難し、同原告を中傷するようなビラを職場に貼る等の行動に出た。また、原告山口及び同宮崎からの本件罷業積立金の返還にも応じなかった。

4  被告は当時会社と闘争中であったため、被告の一般組合費がなくなり、罷業積立金の中から昭和六三年三月二六日に四万円、同年四月一三日に一万円、同月二七日に三万円を各組合員に返還し、その内四月一三日と二七日に各一万円を臨時組合費として徴収している。

5  被告は、昭和六三年五月三〇日、組合事務所において臨時組合大会を開き、そこで罷業資金規定(旧規定)を新規定(〈証拠略〉)に改正する旨の決議をした。

右新規定は、旧規定の三条、四条を「第三条(徴収)―罷業資金は組合費の一部として、組合費に準じて徴収する」、「第四条(罷業資金の使途)―罷業資金は罷業期間中の組合員の生活資金等闘争に必要な資金に充てる」と改訂し、旧規定の八条、九条を「第八条(退職時の表彰等)―次の場合は、表彰金又は慰労金を支払う。(1)死亡 (2)退職(在組合中) (3)定年による非組合員となった時 (4)その他大会で決議された時」、「第九条(表彰等金額)―別に定める。(当面従来通りとする。)」とそれぞれ改訂した。

6  右改正の趣旨は、罷業資金を組合費の一部とすると共に、罷業積立金の使途を罷業期間中の組合員の生活資金から一般闘争に必要な資金にまで拡大し、また、個人返還の規定をなくして表彰金等の支払制度とし、原告宮崎及び同山口のように組合を脱退した者からの返還請求の要望を防ぐ目的で改正したものであり、組合員らは、新規定の下では脱退が罷業積立金の返還事由にならないとの認識をもって、新規定を出席者全員(二二名、欠席一名)の賛成で決議したものである。

四  右認定事実によれば、昭和六三年五月三〇日に罷業資金規定が旧規定から新規定に改正されたが、右新規定の規定内容及び規定改正の趣旨からみて、組合員が組合を脱退したときは罷業積立金の返還請求権が当然には発生しないことが明らかである。

原告らは、右規定改正の目的は、原告宮崎及び同山口の返還請求を事実上排斥するための臨時的、便宜的なものであり、右両名を除く組合員らには適用しないものとして決議されたものであり、原告らは仮に新規定になっても後日それぞれの個別積立金は個別明細どおりに返還されると考えており、また、右規定改訂当時の状況からして被告三役の方針に反対したり異議を言い出せる状況ではなかったのであるから、右新規定は錯誤により無効であるか、あるいは詐欺による取消により失効したものであって、本件罷業積立金の返還を妨げるものではない旨主張する。

しかし、前記三記載の証拠によれば、右新規定に改正の際には組合執行部から原告ら主張のような便宜的処置として改正する旨の説明はなされなかったことが認められ、他の組合員らには適用しないものとして新規定を決議したとは認められない。また、右証拠によれば、原告らも新規定によれば脱退によっては罷業積立金が返還されないことを認識していたものであることが認められ、当時組合闘(ママ)争中であって、まだ組合脱退を考えていなかった原告らが自分には将来返還されるものと思って賛成決議をしたとしても、その決議の効力に何ら影響を及ぼすものではない。

したがって、原告らの新規定の無効ないし取消の主張は理由がない。

以上によれば、原告宮崎及び同山口を除くその余の原告らは、旧規定によっても新規定によっても本件罷業積立金の返還請求権を有しないから、同原告らの請求は理由がない。

第四  以上の次第で、原告らの本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 窪田季夫)

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